認知症でも心は豊かに生きている

認知症の専門医の長谷川和夫先生の著書名です。長谷川先生は認知症の診断に広く用いられている「長谷川式簡易知能評価スケール」の開発者です。長谷川先生は精神科医で、認知症に関しては日本で最も有名な先生です。その先生が2017年に自分が認知症になったことを公表されました。「年を取れば誰もが認知症になりえる」ことを多くの人に知ってもらいたいとの思いで、認知症であることを公表したと著書の中で述べておられます。公表したもう一つの理由は「認知症は特別な病気ではない」ことを伝えたかったからと申しております。
認知症になることが不安な高齢者や、高齢者を親に持つ方々に知ってほしいと思ったのが本書執筆の動機と述べておられます。認知症は徐々に進行する病気です。認知機能が低下した患者さんに接するとき、よほど注意い深く観察しなければ、これまでとの違いが判らないことは少なくありません。本書には認知症になった先生ご自身が「認知症になって判ったこと」が紡(つむぎ)出されております。認知症になった長谷川先生により紡ぎ出された言葉をブログで紹介したいと思います。(本書をぜひお読みになることをお勧めいたします)

自分が認知症になり、私もようやく本物の認知症研究者になれたのではないかと思っています。

私は3年前に認知症になりました。家の鍵をかけたかどうか、はっきりしなくなり、何度も玄関に戻るようになりました。今日が何月何曜日かわからず、知っているはずの場所にたどり着けないこともありました。認知症を専門にして50年以上。だいたいのことは判っているつもりでした。その自分が認知症になるとは思わなかったのですが、いざなってみて思うのは認知症の人の本当の痛みを知ることができたということです。以前、「あなた自身が認知症になって、初めて本当のことが判る」と言われたことがありますが、今その言葉を実感しております。

(長谷川和夫著:認知症でも心は豊かに生きている(認知症になった認知症専門医 長谷川和夫100の言葉)から)