固定された状態でない認知症

認知症の患者さんを診察していますと、その人が認知症と知らされていなければ、会話は普通に成立しますし、なんら違和感を感じることなく、認知症と判らないことが少なくありません。長谷川先生もご自身が認知症になられて初めて分かったこととして以下のように述べておられます。

認知症になって実感したのは、認知症は固定された状態ではないということです。
認知症になる前と後でも人間の生は連続していますが、そもそも認知症自体にも普通の状態との連続性があるのです。例えば私の場合、朝起きたときは調子が良く、午後から夕方になると混乱がひどくなります。でも、一晩寝ると元通りに頭がすっきりしているのですよ。
 認知症は固定の状態があり、一度なったら元の状態に戻れないと思われがちですが、実際は普通の状態と言ったり来たりすることがあるのです。専門医である私自身、自分が認知症になるまで気ずきませんでした。なったらそれっきりでないことを、たくさんの人に知ってもらいたいですね。」
 (長谷川和夫著:「認知症でも心は豊かに生きている」中央法規から)