心は生きている

認知症が進んでも、心は豊かに生きている。感性はむしろ研ぎ澄まされています。 認知症で著しい物忘れなどの障害が起きても、感情の動きがなくなったり、何もわからなくなったりするものではありません。認知機能が衰えても、右の脳が司る感性の働きは健在なのです。喜怒哀楽や悩み、希望、豊かなものを求める気持ち、年配者としての誇り、他者や子供を慈しむ気持ちなどは、うまく表現できないにしても、溢れるほどに秘めています。その反面、感情の抑制が効かなくなり些細なことで怒ったり、落ち込んだりすることもあります。いざ自分が認知症になった場合の心構えとして知っておいてほしいものです。

若年性認知症もありますが、一般的には高齢になるにつれ、認知症が増えてきます。高齢者への尊敬の気持ちを失わないことの大切さが語られていると思われます。

プライド:

認知症になっても人としてのプライドを失うわけではありません。

認知症の人には何をいっても伝わらないだろうと、ばかにした態度をとる人がいます。こういう人は、認知症になったらどんな扱いをされようとも何も判らないと思い込んでいるのではないでしょうか。

感性と同様に、認知症になっても人としてのプライドは残ります。存在を無視されたり、軽く扱われたりしたときの苦痛や悲しみは、誰もが体験していることでしょうが、それは認知症になっても同じなのです。話をするとき、敬意を払ってほしいと思います。認知症の人が何も言わないのは、必ずしも現状を判っていないからではないのです。

私たちは誰もがプライドを持っておりますが、認知症の患者さんも、プライドを持っておられることを忘れてはいけないとの教えです。

(長谷川和夫著・「認知症でも心は豊かに生きている」 中央法規社から)